こんにちは、労務行政書士事務所 三九 です。
10人未満の貴社でも規則がないのであれば、問題が起きていないうちに規則を作成してください。
現時点で何も問題がなくとも、規則がないと問題発生時は原理原則(労働契約法3条など)に頼ることになり、できることが限られてしまい、解決までに時間を要することになるでしょう。
また、規則があっても、その規則に「制裁」項目がない場合には、社員の方に制裁ができません。
(労働関係諸法令には、社員への詳細な懲戒処分規定はありません。会社と社員という私人間の問題だからです。)
今回は、制裁に焦点をあてながら関係するところを説明していきたいと思います。
(*制裁に限らず、安全衛生など職場全員に適用されるルールは定めることをお勧めします。会社と社員や社員同士など状況などが異なるからです)
懲戒処分とは
懲戒処分の趣旨
そもそも、制裁とはどんな行為でしょうか?
制裁とは、何らかの罰を受けること、と辞書などに記載があります。
会社内であれば、懲戒処分のことを指します。
たとえば、新入社員がミスをしました。指導役が適切な口頭注意を行い、ミスをしないように手順確認などの指導をすることは制裁に当たるでしょうか?
ご存じのとおり、あたりません。
上述の新入社員がまた同じミスをしましたが、指導役は口頭注意に指導とフォローをしました。にもかかわらず、3回目も同じミスをしました。
指導役もあきれて上長に報告し、上長が処分をしようとしても懲戒処分規則(=制裁規則)がない場合には、一般的な懲戒処分である譴責処分すらすることができません。
また、それなりのミスをしても処分されない、ということは社内にだらけた空気が蔓延し、緊張感を失わせた結果、労働災害などにも繋がりかねません。
懲戒は字面がよくありませんが、ミスをした相手を処分により懲らしめ、相手は自己で懲りることにより、自己を戒め、次に同じことを繰り返さないように注意する、ことが本来の目的です。
- 懲らしめる=制裁を科して同じことをさせないようにする
- 懲りる=同じ失敗を繰り返さないようにように自己に誓う
- 戒める=前もって注意をする
* 懲戒規則(処分)といえども、法令や公序良俗などに反する定めはできません。
厚労省のモデル就業規則などを使って作成してみましょう!
「なら、作ればいいんでしょう?」
そうです、大事なことなので、下記厚労省作成のモデル就業規則を参考にして、会社内で話し合い、まずは制裁規則を作成してみてください。
(*周知のほかに同意(=不利益変更に該当する場合など)も必要になる場合がありますので、ご注意ください)
【全体版】モデル就業規則(令和3年4月)↓
厚生労働省サイト↓
また、スタートアップ労働条件↓というサイトで作成できます。
自分たちで作成するのは厳しいから作成して欲しい、と思われましたら、お問い合わせよりご依頼頂ければ幸いです。
相対的事項と絶対的事項(労働条件通知書と就業規則の比較)
さて、上述の制裁規則(=懲戒処分規則)は、相対的必要記載事項というものにあたります。
相対的必要記載事項とは、恣意的に運用されないよう、定めた場合に必ず記載しなければならない事項になります(以下、記載事項の場合は「必要」を除く)。
この相対的事項には、記載と明示の2種類があります。
相対的記載事項と相対的明示事項の違いは、記載は就業規則など、明示は雇い入れ時の労働条件通知書です(就業規則類の規則にも法律による周知義務があるので、明示しているということがいえるでしょう)。
また、相対的記載(明示)事項に関連するもので絶対的記載(明示)事項があります。
絶対的記載(明示)事項とは、絶対に記載(明示)しなければならない事項のことを言います。
まずは、制裁が該当する相対的事項から比較します。
相対的事項=定めた場合、明示や記載する必要がある事項
比較してみましょう。
* 明示事項は、労働基準法施行規則5条 記載事項は、労働基準法89条
相対的明示事項(労働条件通知書) | 相対的記載事項(就業規則など) |
退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払いの方法及び支払時期 | 退職手当に関する事項(適用労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払い方法、支払時期) |
臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与及び最低賃金額に関する事項 | 臨時の賃金等(退職手当を除く)、最低賃金額 * 等に賞与が入っています。 |
労働者に負担させる食費、作業用品などに関する事項 | 食費、作業用品、その他の負担 |
安全・衛生 | 安全・衛生 |
職業訓練 | 職業訓練 |
災害補償、業務外の傷病扶助 | 災害補償、業務外の傷病扶助 |
表彰、制裁 | 表彰、制裁の種類、程度 |
休職 | その他 全 員 に適用されるもの(旅費・福利厚生等) |
*相対的事項を定める場合には、法令や公序良俗などに反していないかを念頭において作成してください。
絶対的事項=必ず明示や記載しなければならない事項
比較してみましょう。
* 明示事項は、労基法15条・労基法施行規則5条 記載事項は、労基法89条
絶対的明示事項(労働条件通知書) | 絶対的記載事項(就業規則など) |
労働契約の期間 | |
有期労働契約を更新する場合の基準 | |
就業の場所、従事すべき業務 | |
始業・終業の時刻、 所定労働時間を超える労働(早出・残業等)の有無、 休憩時間、休日、休暇 労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時 転換に関する事項 | 始業・終業時刻 休憩時間、休日、休暇 交代制で就業させる場合には就業時転換に関する事項 |
賃金の決定、計算方法 支払い方法 賃金の締め切り、支払いの時期 | 賃金の決定、計算方法 支払い方法 賃金の締め切り、支払いの時期 |
退職に関する事項(解雇事由含む) | 退職の事由・その手続き、解雇の事由等 |
昇給に関する事項 *書面明示事項ではない | 昇給に関する事項 |
* 労働条件の明示(絶対的明示事項)は、昇給に関する事項を除き、原則は書面明示です。
例外は、労働者が同意をすれば、メールやFAXなどでもできますが、紙出力できることという限定です。
また、労働契約法4条でも労働契約の内容はできる限り書面確認をするものとする、としています。
まとめ
如何でしたか?
内容がほとんど変わりないことがご理解いただけると思います。
就業規則作成義務のない貴社であっても、労働条件通知書(=原則書面の絶対的明示事項)は必要です。労働条件通知書と就業規則で求められていることが大体同じであることは上掲の通りです。
以上から、労使間のトラブルを避けるために、厚労省はモデル規則を作成公布し、ハローワークなども求人受付の際に就業規則などの確認をしています。
注意事項
今回は就業規則作成義務のない10人未満の会社様に、規則の必要性をご理解いただくために、制裁に焦点をあて、その流れで労働条件通知書と就業規則の比較をしてみました。
制裁規則などが上手く作成できて、次は就業規則を作成する、という場合には注意が必要です。
厚生労働省も、モデル規則なので会社の実情に合わせて検討してください、と注意を促しています。
モデル就業規則には「賞与」や「退職金」など多くの記載(相対的事項)があります。
会社によっては、設立当初から賞与や退職金の制度がない場合もあると思います。
これは法律違反ではありません。
ただし、モデル規則の丸写しをしてしまい周知・届け出などを済ませた場合、社員の方から賞与や退職金を請求されれば支払わなければならなくなるかもしれません(個々の事情などは裁判所が判断することなので割愛)。
要約すると、モデル規則を使用するのであれば、会社の実情に合わせ、法令に基づいて絶対的記載事項に関しては必ず記載を。相対的記載事項は定めても定めなくてもいいが、定めるのならよく考え、実行できるものだけ定め、できないものは定めないようにすること、定めた場合は就業規則に記載が必要、その他の条件も満たしてください、ということになります。
最後の補足としましては、任意記載もできます。これも法令や公序良俗などに反していないことが必要です。内容は、貴社の理念・目的などがあたります。
お読みくださり、ありがとうございます。
上記のモデル規則などの説明をお読みくだされば、作成は可能かと思います。
難しいと思われる会社様は、お知り合いの社労士にご依頼されれば作成してもらえると思います。
社労士のお知り合いがいらっしゃらない会社様は、是非、弊所にご依頼いただければ幸いです。
作成のご依頼は お問い合わせ よりお願い申し上げます。